第七夜
―――さぁ、貴女の望み通りに答えましょう。 私は全ての『答え』を授かっているのですから… ラグナの言葉に従って、はゆっくりと森の中を進んでいた。 欝蒼と生い茂る草木に目をやりながら、ぼうっと現実感のない世界で現実的な生命の有様に眩暈を起こしそうだった。 「…ここだ」 ラグナの落ち着いた声にはっとして顔を上げる。 目の前には小さな小屋が一軒建っていた。 「お忍びとは…気苦労が絶えなさそうじゃの〜」 先ほどからやけに静かだったナガレが苦笑しながらラグナに言葉をかける。 ラグナはそれには無言だった。 「なぁなぁ!早速入らない?!」 「あぁ」 クレリューフの明るい声に我に返るように、ラグナは小さく返事をする。 扉を開くと同時に古い木の鳴き声が聞こえた。 よくホラー映画とかでよく聞こえるアレだ。 人の深層心理を見事につかんだ、何かが出るんじゃないかという例の音。 は無言でそんなことを考えながら、用心深く小屋の中に足を踏み入れる。 しかし、その瞬間…一気に腰が抜けてしまうかと思った。 「やぁ!元気かい?♪」 「うふふ〜、いらっしゃい〜v」 キラキラと輝く宝石類から反射した光が眩しい。 思わず、は目を細めてしまった。 床に広がった虎の毛皮の絨毯。 窓に掛かっているカーテンは重そうな質の高いワインレッド。 一番人目を惹くであろう、派手な装飾を身にまとった美しい二人組。 「なっ、何してるんですかっ!!リリアトスさん、レイさんっ?!」 は我慢できずにその二人に怒鳴った。 外から見た小屋の雰囲気と中から見た小屋の雰囲気は天と地の差だ。 (もしくは豚に真珠、猫に小判って、あ、違う) 脳内一人突っ込みを繰り返しているに怒鳴られた当人たちはけろっとした顔で満面の笑みを浮かべた。 「折角〜、に会えるんだったら〜、ゴージャスにしとこうかと思ったの〜」 「いや、そんな無駄な行為いりません」 「そうそう、有り余る権力とお金の使い道というか?」 「はははっ、それはリアルに私への嫌がらせですか」 「……」 能天気な台詞を吐くレイとリリアトスに冷たいつっこみを浴びせながら、は深い溜息を吐き出した。 その彼女を眺めながら、ラグナは少しだけ微笑む。 「ん〜、それにしても〜、元気そうでよかった〜v…さ、もうわかっていると思うけど〜」 レイは少しだけ雰囲気を変えると、意味深な笑みを口元に浮かべる。 「さぁ〜、私が貴女の浮かんだ問いに答えてあげるわ〜。勿論…」 とレイの視線が絡む。 「…お代はタダだから〜安心してね〜v」 は飲み込んでしまった唾に後悔しながら、一度瞬きを繰り返し、小屋の中にいるメンバーを一度見回した。 それから、大きく深呼吸してから真っ直ぐにレイを見つめる。 先程、レイは確かに自分の名をあだ名で呼んだ。 そして、例のトランペットを吹いていた謎の青年も。 彼の正体のはっきりした答えは出ていない。 その確証はなかった。 だが、たった一つ。 大きく気づいたことがあった。 いや、気づいてしまったこと。 この夢が始まってから、ずっと忘れていた何か。誰か…。 ――この世界で存在しているはずなのに存在していないものはなんだと思う? そう、それは…。 口に出そうとした瞬間、急にダーダイルの声が脳裏を過ぎた。 ―次に俺に巡り会うその時まで、夢を見続けて欲しい― 別れを告げてしまう言葉かもしれない。 だけど、はもう既に唇を動かしていた。 「リリスさん、アリアさん、レイカさん、キャロットさんは…ゲームのヒロインさんはどこですか?!」 いや、むしろ…。 「私以外の女性は…どこに存在しているんですか?!」 時が止まった気がした。 ナガレもクレリューフも黙っていた。 リリアトスは笑みを浮かべながら、ラグナは真剣な表情のまま…。 ただ、レイだけがくすっと小さく肩を揺らす。 長いウェーブのかかった癖っ毛をかきあげ、床に毀れている長い絹のローブを揺らしながら。 「…存在などはしていない」 いつもと違った音色だった。 あののんびりとした間延びする口調ではない。 「君は、…選択した」 レイの恐ろしいほどに整った綺麗な顔が、あと10pという距離にまで近づいてきた。 長くて細い指がそっとの頬をなぞる。 周囲のメンバーは誰一人として動かない。 時は……完全に停止していた。 「選択…?」 「そう。選択。…いつだって誰かは選択し、決断する」 レイはにこやかに微笑む。 「そしてまず、君は…この夢を観る事を望んだ。…そう、切実に」 「…はい」 それは判った。 は望んでいた。 現実ではない、非現実的な…夢の世界を。 「ふふ〜。…大丈夫。この夢は終わらないし、貴女は目覚めないわけじゃないわ〜」 いつものおっとりとした口調。 は目を大きく見開けながら、レイの顔をまじまじと見つめた。 薄い金色の瞳。 そして、何よりも澄んだ色の髪。 「貴女は何度も目覚めているの。夢の途中、途中で…。だから、現実と夢を交差している」 「え?」 「だけど〜、その記憶を今、持ち合わせていないだけ。この世界には必要ないから〜」 「それって…?」 「夢は反復する。繰り返す。…貴女は何度も違う展開に行き着いたわ〜」 レイの唇がそっとの唇と重なった。 「れ、レイさ…っ」 動けなかった。 「ここは夢の世界であって、ただの夢じゃない。…楽しめばいいのよ?気楽に、ネv」 安心感を覚える笑顔。 その所為か、またもや重なってきたレイの唇には抵抗をしなかった。 瞼を力なく閉じる。 舌がそっと侵入してきた。自分の口内に違う人間の舌が…。 (う、うそぉ?!) 「んっ!!…そ、それはさすがに夢でも駄目ですっ!!」 はそう怒鳴って思いっきり力いっぱい跳ね除ける。 「〜〜〜ってぇな、てめぇ…」 しかし、その瞬間思考回路が停止した。 (…はっ?…今の声はレイさんじゃ…ない…?) 恐る恐る尻餅をついている男に目を向ける。 沈み間際の夕日のような紅の髪。 少し意地悪そうにつり上がった瞳…。 「ぎゃああああっ!?トキさんっ?!」 「ふんっ、たかが人間風情が、この俺様に攻撃するなんてなぁ?いい度胸じゃねぇか」 ギロリと睨まれて、は一瞬硬直した。 辺りを見回せば、ゲーム中に見覚えのある森の中。 ここは――刻の森…。 「…い、いくら夢だからって、こんな展開は…反則…」 泣きそうな声を出してはみたが、所詮それは空しく消えるだけだった。 「さて、覚悟、できてんだろ?」 ―――さぁ、一度ここで現実に戻ってみようか? そう…また気が向いたら、おいで。 この夢は永遠と続いていく…。 だけど、忘れないでね。 君が望まないと…この夢は決して、続かないのだから…。 |
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