第二夜

『そうですね。夢の世界を渡り歩くのも楽しいかもしれませんよ…?』
――夢の世界を渡り歩く…
『さぁ、この一時目覚めを忘れて歩き出してください』
――目覚めを忘れて…


色鮮やかな世界をは歩き出していた。
長い廊下のあちこちに絵画が飾られていて、それが皆美しい女性を描いている。
その瞬間、はハッとした。
さん…?」
?どうしたー?」
左右に並ぶようにして歩いていたコルチェとルシフェルがゆっくりとの顔を眺めた。
足が止まる。
「予告もなしに足を止めると、驚いてしまうよ…?」
後ろをついてきていたダーダイルが艶っぽい笑みを溢しながら、そっと動きを止めたの肩をに手を添える。
「鏡…」
そのダーダイルの手をつねりながら、はぼそりと呟いた。
「鏡って、どこかにある?」
「鏡ですか?」
コルチェが不思議そうに顔を傾けて繰り返す。
「…あるなら、教えてください。そ、その、確かめたい事があって」
「…どうしたんだい?そんなに慌てて…」
懲りずにの肩に触れながら、ダーダイルも興味を示してきた。
「鏡なら、その部屋…」
ルシフェルが指差した廊下の突き当りに目をやると、今まで何も気配を感じなかったはずの場所に扉がある。
いや、あったのだろう…。
ぼんやりと頭の中で誰かが認識をした。
「…とりあえず、鏡――」
「あ、さん…っ」
コルチェの止める声も聴かずに、はその扉のノブを回す。
勢いよく扉を開けると、その扉の向こうは広い部屋になっていた。
「おや…?こんにちは」
「えぇっと、クライシスさん、ちょっとお邪魔しますねー」
はその部屋の作りを目にして、すぐにその部屋に住んでいる者が誰なのか理解した。
そのため、聞こえてきた部屋の主の声に素直に言葉を返すと、薄れた驚きで愛想笑いを彼に浮かべる。
「…これは、皆さん…お揃いで」
クライシスの方も当然だといわんばかりに優しく微笑んだ。
コルチェとルシフェル、そしてダーダイル。
さらにの事も知っていて当たり前なのだろう。
「あ、あった!」
は不思議な感覚に襲われながら、部屋の隅にある鏡の前に立つ。
そして全身をその姿見に映しながら、じっと見つめた。
「……」
眼鏡をかけ直したりしてみたが、違和感はなかった。
鏡に映っているのは自分であろう姿…。
いつも見る姿だった。
美容室に行くのが面倒で、自分で切った前髪。
後ろはだいぶ前に美容室へいったきりのまま、伸ばしている感じである。
そうして度のきつい眼鏡は外すとやはり何も見えなくなるぐらいで、このままかけるしかない。
そうすると、やはり自分の素の姿のまま夢の世界に存在している事になった。
「…ちぇ。少しぐらい修正してくれればいいのに」
どうにもならない呟きが漏れる。
「…えぇっと、一体彼女はどうされたんですか…?」
遠慮がちな声が部屋の隅で聞こえた。
「いや、僕にもよくはわからないのですけど…」
その声に答えるようにコルチェも苦笑する。
「せめて、服ぐらい…――」
は視線を自分の服へ向けて、一瞬動きを止めた。
「…?」
心配そうなルシフェルの声が脳裏に届いて、やっとは呼吸を再開する。
「ふ、服…、こんな服持ってないよ?…え、っていうか、初めからこんな服だった…?」
混乱した様子では声をかけてきたルシフェルに振り向いた。
「は?いや、そうだったと思うけど?」
ルシフェルも少し困惑したようにを見つめ返す。
の服は真っ白いワンピース姿だった。
こんなに綺麗な生地のワンピースを持っていたという記憶はない。
むしろあまりこんな清純のような格好は好んでは着ていなかった。
自分では似合わないと思っていたから。
「…別にいいじゃん?…似合ってんだし」
ルシフェルが優しい口調での頭を優しく撫でた。
その彼の行為に少しだけ安心感を覚える。
「…マジで可愛いv」
甘い囁きが溶けるように耳に入ってきた。
ルシフェルの唇がそっとの頬を掠める。
吐息が肌に触れてきた。
「…ギャ―――!!」
は頬を真っ赤に紅潮させながら、ルシフェルから逃げるようにして後退した。
そういえば、彼にはこの世界に目覚めた瞬間に唇を奪われていた。
それの記憶も重なって、は顔中から火が出るように真っ赤になる。
「ふふ…、本当に可愛らしいね…v」
その行動を見ながら、ダーダイルもからかうように続ける。
「…っていうか、お前は何してんだ!」
「どわっ、ギブギブっ!!」
コルチェが冷たい重低音の声で怒鳴りながら、ルシフェルの三つ編みで彼自身の首を絞めていた。
そんなコントのような会話が目の前で繰り出されて、は火照りを少しずつ静めていく。
「…さん、大丈夫ですか…?」
遠慮がちにクライシスが淹れてきたハーブティーをに差し出す。
「あ、ありがとう…ございます」
は柔らかい笑顔のクライシスにつられて微笑みながら、ハーブティーを一口喉に通した。
温かくて、味がした。
当たり前だと思われてしまうが、ここはたしか夢の世界である。
なのに味がする。
温度差もあった。
は再び不思議な感覚に襲われる。
「…やっぱり、ただの夢じゃない…」
呟きが静かに漏れた。
「…そうだね、ここはただの夢ではないよ?」
ダーダイルが含み笑いを浮かべながら、そう紡ぐ。
「…思い通りにいくようで、思い通りにはいかない…。そんな感じかな?」
「うー、わかりません」
含み笑いがなんだか馬鹿にされているような感じで、少しだけ頬を膨らませながらはダーダイルの顔を見つめた。
憎たらしいほどの綺麗な顔立ち。
現実のものじゃないその顔立ちは、今はやけにリアルで現実に近かった。
ただ、恐ろしいほどに整った顔立ちが、現実と言うものを遠ざけている。
左眼の眼帯をとれば、きっともっと非現実的な存在になるのだろう。
「…この世界で怪我をする…?死ぬ事も?」
不意には呟いた。
いきなりだとは自分でも思ったが、何故か先ほどから頭の中で考えた事をすぐに口に出してしまっている。
これも夢の世界の何かの力なのだろうか?
「…そんな危ない…、あまり無茶な考えはもたないでください」
恐る恐る怯えたような口調でクライシスがの言葉に返答する。
彼の方へ視線を向けると、クライシスの後ろに大きな出窓があることに気づいた。
「…例えば」
はぽんっと手を打ちながら、出窓へと近づく。
…さん…?」
「ここから飛び降りたらどうなるのかなー?」
出窓の向こうの景色は、中庭のような景色だった。
その中庭もどこかでみたような気がするが、はっきりとはわからない。
さんっ!?」
?!」
コルチェとルシフェルがほぼ同時に叫んだ。
それと同時にダーダイルがの側に駆け寄って、クライシスも息を飲んでいた。
「くっ!」
ダーダイルが手を伸ばして、の身体を支えようとしたが、彼女は窓からひょいっと飛び降りる。
一瞬だけ、世界が逆転したような気がした。

「――ったぁ…!」
「…そ、それはこっちの台詞」
大きな音が響いて、は打ったらしい体の一部の痛みを感じた。
自分の下から、はっきりと男の声が聞こえる。
「は、さん、大丈夫ですか…?!」
上を見上げると、二階ぐらいの高さの出窓からクライシスが顔を覗かせていた。
「大丈夫…みたい」
「全く…無茶をするやつだな、お前」
階段を急いで駆け下りてきたのか、ルシフェルが息を切らしながら、中庭に出てきていた。
今までいたと思われる場所は大きな館みたいな感じだ。
ルシフェルの後ろにコルチェとダーダイルもついてきている。
「…ん、不思議…」
「…あの、それより…いい加減どいて欲しいかな」
「わわ!?」
苦笑している声には慌てて立ち上がる。
そうしてよくよく下に下敷きにしてしまった人物を見ると、彼もよく知っている人物だった。
「く、クロスさんじゃないですか!」
まさかまた違う種類のゲームキャラまで出現するとは思ってもいなかったは思わず敬語になってしまう。
「…はぁ。大丈夫か?」
溜息を吐き出しながら、クロスは自分の身体の土ぼこりをパンパンっと払った。
「えーと、はい。お陰様で平気、です」
「それならいいけど…」
「…さん、傷薬とか持ってきましたけど…っ」
息を切らしながら、青い顔のクライシスが救急箱だと思われるものを手にし、階段を駆け下りてきた。
「やー、痛いけど、打ち身ですし」
平気だといわんばかりには笑顔で返す。
「…ふぅ、もう無茶はしてはいけないよ?」
ダーダイルがコツンとの額を小突いた。
彼なりに心配していたということだろう。
「そうですよ、全く…、クロスが下にいなかったらどうなっていたか」
「…まぁ、この高さだから怪我くらいで大丈夫だと思うけど」
コルチェの言葉にクロスも続ける。
「…怪我とか問題じゃなくて、心配させんなってことだけどな」
笑いながら、ルシフェルも続けた。
「…ご、ごめんなさい」
軽く謝るとはぽりぽりと頭をかく。
不思議な感覚がずっと付きまとっていた。
打ったと思われるお尻の辺りもずっとじんじんしている。
もしかしたら、現実ではベッドから転がり落ちたと言うオチだろうか?
しかし、そうまでしているのに目覚めないのはおかしかった。
それにハーブティーを飲むこともできた。
「…風が…吹いてる…」
は目を細め、肌に触れて過ぎていく風を感じる。

この世界はただの夢ではない。
しかし、夢だ。
そう考えないとは肌に触れる全てを心で感じてしまいそうだった。
所詮は淡い夢のはず。
「大丈夫…ですか?」
心配そうなコルチェの表情が何故か胸を締め付ける。
生きている人たち、現実で出会う人たちと同じように変化する表情。
「大丈夫…」
苦笑するようには微笑みを返した。
鏡で見た自分はあまりにも現実と酷似した姿の自分だった。
だとすれば、この世のものとは思えないぐらいの彼らと一緒に立っていてつり合うはずはない。
なぜなら、彼らは非現実的な作りをもっているのだから。
「…大丈夫、じゃねぇだろ?」
ルシフェルの心配そうな声が頭を撫でた。
「あぁ、…その通りだな」
続けるようにクロスもの顔を覗き込む。
何故かそれが異様に恥かしかった。
「星の女神…?…君は美しいよ…v」
後ろから顎に手を添えられて、ダーダイルの方へと顔を向かされる。
その時には泣きそうなぐらいになっていて、は成すがままだった。
「嘘ばっかり、吐かないでください…っ」
「嘘じゃないさ…v」
即答するとダーダイルは徐にの唇に自分の唇を重ねる。
あまりにも自然体のその行為には一瞬、何をされたのか判らなかった。
「…んvほら、可愛い…v」
呆然としているの表情に微笑むと、ダーダイルはそっと親指での唇をなぞる。


『目覚めたくないのは現実?非現実…?』
夢はまだまだ続く…。
それが貴女の望みであれば…。

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