第一夜
『もう疲れた…明日は…まだ、水曜日…』 寝る前に反芻する言葉。 嫌気が差してくる現実。 呪文のようにただただ同じ台詞を口ずさむ。 『幸せな夢をみたい…。明日がこなければいい。このまま夜であれば…』 無駄な努力だと判っていても、言葉は止まらずくり返す。 夢がどんなに幸せでも、現実は悲惨な事に代わりはない。 そんな事はしっていた。 だけど、夢見まで悪いなんて逃げ場所がないじゃないか。 今の状況じゃ忙しい波に流されるだけで、心の意味での本当の休息には出会えない。 だとしたら、やはり夢に逃げるしかないのだ。 今まで遊んでいたフリーソフトの同人ゲームを終了させて、パソコンの電源を落とす。 自分の部屋の電気も消し、彼女は瞼を閉じた。 「そんな簡単に夢みるわけないじゃん…」 ぼそりと小さく呟いた頃には彼女は深い眠りへと落ちていった…。 ――ピピピ。 目覚し時計が鳴っている。 「んん…っ」 眠りはあまりにも深すぎたせいか、夢をみた形跡がない頭のまま、は煩く眠りを妨げる目覚し時計を止めようと手を伸ばした。 しかし、手を伸ばした瞬間、自分の頭のすぐ側で何か触りなれないものが肌を掠った感じがする。 ―――ピピッ。 とりあえず、目覚し時計を止めてから、は暫く硬直した。 薄っすらと瞼を開けると、目の前に綺麗な顔がある。 呼吸まで止めたまま、はその顔をまじまじと見つめた。 (…目がそこまで悪くなったのか…?) 冷静に努めようとして、は目覚し時計を止めていた手を動かし、隣にあった眼鏡を手にする。 ゆっくりと恐る恐る度のきつい眼鏡をかけ、ぎゅっと瞼を一度閉じてから開けた。 「…ん」 (…!!!?) 悪くなったのは視界だけじゃない。耳まで悪くなったのかもしれない。 は硬直したままぐるぐると頭の中で混乱した言葉を並べていく。 目の前の男の唇から、男の声が漏れ、男が少し身動きをしたのだ。 間違いなく彼はそこに存在している。 でなければ、やはり自分の脳味噌がやられてしまったのかだが…。 「…る、…ルシ…フェル…?」 はその綺麗な顔立ちの青年の顔を眺めながら、いつの間にかそう呟いていた。 この青年の顔は見覚えがあって、は知っている。 いや、知っていると言っても彼は現実には絶対存在しないはずのもの。 むしろこの部屋に存在する事は在り得ない存在である。 何故ならば、彼は机の上にあるパソコンの中でしか存在しないはずなのだ。 そう、たまたま巡り会ったフリーソフトの同人ゲームのキャラクター…。 「…ルシフェル…」 「ん、…何?」 (?!) ルシフェルだと思われる彼がそっと眠そうに瞼を上に上げ、の顔を眺めてきた。 長い睫毛が上を向いて、薄いアイスブルーの瞳の中に自分の姿が映る。 「…おはよう、v」 長い銀髪の前髪を手ですくい上げてから、彼はの額に口づけをしてきた。 の額に彼の唇の感触がはっきりと伝わってきた。 ―――ルシフェル の脳は目の前の青年がルシフェルであることを完璧に認識する。 その瞬間、の頬が一瞬で紅潮した。 「な、な、何するんですか!」 大声で怒鳴ると、は慌ててベッドから立ち上がる。 状況はよく理解できていないが、同じベッドの中に男がいるなんて言語道断だ。 ん、いや、ちょっと待て。 ルシフェルは存在するなんておかしい。 やはり夢かもしれない。 「何、んな難しそうな顔してんだよ?」 ルシフェルはベッドの上で仁王立ちしているを見上げながら、可笑しそうに笑った。 その笑顔には思わず見惚れてしまう。 ごく自然な笑顔。 そこに生きているという証。 「……」 はぺたんっとベッドの上に座り込んで、まじまじとルシフェルの顔を眺めた。 ルシフェルの方もその行動を黙って見つめながら、呼吸を繰り返す。 彼が息を吐いたり吸ったりするたびに、彼の胸元は上下し、ちゃんとそこに肺があってその機能を使っていることが判った。 「…ルシフェル…さん」 「さんってなんだよv」 思わず丁寧口調になると、ルシフェルはからかうように笑ってからの額にでこぴんをする。 「…痛い」 「そりゃあ、現実だから?」 もう一度笑うと、ルシフェルはの頬に手を添え、その唇を奪った。 ルシフェルの温もりのある唇が重なり、そして驚いているをぎゅっと彼は抱き寄せる。 「…、この夢を永遠に…」 「るーしーふぇーるー…」 「?!」 ルシフェルの甘い囁きに身を任せてしまった瞬間、すぐ隣で聞き覚えのある声が聞こえた。 「…こ、コルチェさ…」 「はい、こんばんは♪」 ルシフェルの首を絞めながら、彼と同じような顔をした青年がそこにいる。 は彼のこともよく知っていた。 彼もゲームの住人である。 ルシフェルと双子の青年。 名前はコルチェ。 「おや…、どうやらが目覚めたようだね…?」 「…えぇ?!」 は自分の部屋の扉が開き、部屋の中に入ってきた男の姿を見て、これまでにないほどの素っ頓狂な声を発した。 「ふふ…、どうしたの?…俺の星の女神v」 「え、いや?!ダーダイルさん?!って、は?!ゲームがちが…っ」 既に脳内はパンク状態だったが、はぐるぐると目を回すように言葉を叫ぶ。 「あー。混乱してるぞ?おい」 「んー、そうですねぇ。気持ちはわからないこともないんですが」 ルシフェルとコルチェはお互いの顔を見合わせると、軽く溜息を吐き出した。 「さん、ちょっと…」 コルチェが混乱しているの手をとり、部屋の外へ連れ出す。 「…え…」 その瞬間、の思考回路が停止した。 いや、もう何を考えたらいいのかわからない状態になってしまったのだろう。 「…ここ、どこ…」 自分の部屋はいつも通りの自分の部屋だった。 だが、その部屋の扉から外を覗くと見知らぬ廊下である。 「ん、そうだねぇ…v言ってしまえば夢の世界なのだが…」 「ゆ、夢の世界って…」 耳の側で聞こえたダーダイルの台詞をは無意識のうちに繰り返した。 夢、だと思ってしまえば納得ができる。 だって、ゲームのキャラクターが出てきて、彼らと会話しているだなんて本当に都合のいい話なのだから。 しかし、不思議だったのことはあまりにもリアルなこの感覚…。 はじっと自分の手を握っているコルチェの手をさらに握り返してみた。 「…さん…?」 コルチェがその行為にどきりとしたように頬を少しだけ赤らめる。 「おや…、それなら俺の手を…」 「えい」 は自分の空いている方の手を握ろうとしてきたダーダイルの手の甲を微妙に軽くつねってみた。 「…何してんだ、お前…」 後ろで可笑しそうにルシフェルが言葉をもらす。 「んー。どうやら、だんだん積極的になってきたようだけど…」 苦笑しながらダーダイルが言ったのを聞いて、はやはり頭を悩ませた。 「…なんでこの夢はこんなにしっかりしているのか?」 夢のくせにはっきりとした感覚。ストーリー。 出てくるのは例の同人ゲームのキャラクターばかり。 それもゲームの種類が違うが、全て同じサイトで公開している無料ゲームばかりだ。 「…何故だろうね…?」 ふっとダーダイルが意味深に笑みを溢す。 「とりあえず、外に出たら何かわかるかもな?」 ルシフェルがの背中に投げかけるように笑った。 「そうですね。夢の世界を渡り歩くのも楽しいかもしれませんよ…?」 「うん」 は難しい事を考えるのをやめることにした。 そうすると、夢の世界は鮮やかな色彩に囲まれだす。 『目覚めたくない…』 誰かがぼそりと呟いた。 夢の世界の冒険はまだ始まったばかり…。 貴女が望めば、この夢は永遠に続くだろう。 そう…ずっと。 |
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