コルチェの秘話
とうに冷たくなってしまったあの人の手を僕は永遠という時間よりも長い間、ずっと握り締めていた。 哀しいほどにその手は硬くて、それが死語硬直である事は十分と理解していたのに目の前にいるのはあの人の形を上手く模ったマネキン人形のようにしか見て取れなかった。 冷たい…。冷たくて硬くて…。僕の心は酷く冷めている。 ―――コルチェは乾いた瞳を潤そうとするかのように何度も何度も数え切れないくらい瞬きを繰り返した。 涙は出ない。 いくら泣こうとしても涙は出てきてはくれなかった。 たった一滴さえすらも。 隣の部屋でわんわんと大声をだして泣いているルシフェルの声が聴こえる。 もう何を口にしているかすらわからない。 狂ってしまったかのように、この世の終わりを覗いてしまったかのように…彼はずっと泣きつづけている。 最愛の母親を失ってしまった悲しみ。 それが今、彼にどっしりとした闇として襲い掛かっているのだろう。 コルチェは羨ましそうに溜息を吐いた。 本当に狂っているのは自分だと。 この世の終わりを呆然と覗いて、そしてそのままひょっこりこっちに戻ってきたのは自分だ。 なぜなら彼は可笑しい程に冷静だったから。 冷静な上に、しかしとても矛盾していた。 母親は…、いや、あの女性は死んでいない。 首を幾度となく振って、コルチェは頭を抱える。 理屈では理解しているのに本能がそれを許そうとしない。 コルチェは彼女を愛していた。 無論、血のつながりのある親子だったから、愛しているのは当然といえるだろう。 ただ、彼はルシフェルとは違う愛し方をしていた。 母親として敬愛するのではなく、親として感情をぶつけるのではなく。 一人の女性として、恋愛対象という見方でコルチェは実の母親を好きになっていたのだ。 否、彼はとても幼かったし、それはただの気の間違いのものだったかもしれない。 だが、たしかに彼は泣いていなかった。 母親から貰った小さな鈴のついたお守りを大事そうに胸に抱く。 (もし、泣ける事ができるならば…) ―――遠いいつかの日、彼はそれを実現できる女性とめぐり合うことになる。 (僕はその人を心から愛する事ができるのだろう…) |
コルチェの秘話でした!! 読んでくださった方、お疲れ様です! ゲーム中でもちょろちょろと語られていた、コルチェくんのお話です。実の母親を愛してしまうって、どんな感じなんでしょうね…? うーん、わからない(笑)判らないですが、それはとても酷く甘美な匂いのするものなのではないでしょうか…? いや、どこかの誰かにとっては。また別の誰かに取ったら、酷い悪臭かもしれませんし…。 …救いが存在すれば、やはり其処には違う女性が必要です。 それがリリスだというお話…(意味不明になってしまいました) |
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