アスカの秘話

「カルロスさん――貴方のお父さんは本当に貴方の事を愛していたのよ…」

アスカを引き取ったミッシェル家のジョゼット夫人は目のしわを作りながら穏やかな笑みを浮かべそう言った。
（…はっ、今更だぜ）
アスカは土を被せられていく漆黒の棺に抜殻のような瞳の視点を合わせる。
（…俺を護って死んだなんて、あんたも相当な愚か者だよな…父さん…）
アスカは皮肉っぽい笑みを口元に浮かべながら、一粒だけ涙を溢した。
夫人がそっと彼の肩に手をかけて、ふくよかな温かい身体でアスカを実の息子のように抱き寄せる。
思わず、壊れたダムのようにアスカの瞳から長い時間涙が止め処なく零れ落ちたのだった。

「大丈夫…、これからは貴方の事を実の息子だと想うから。貴方も実のお母さんだと想って、甘えて頂戴」
優しい音色が紡がれ、アスカの乾いた胸の大地へと染み渡っていく。

――幼い頃に母親を亡くしてから、仕事人間だった父親を恨み、非行に走っては彼の心配を期待していた。しかし、父親は興味のないような顔で息子の不始末を金の力で解決していった。やがて仕事に失敗し、財力も失った家は益々不幸へと陥っていく。
通じ合う事のない距離を保つ二つの父子の心は、いつの間にか冷たい氷の距離を広げていくだけだった。
アスカは口を聞く事もせず、毎晩家には帰らずに色んな女性の家へと寝泊りをすることになる。
しかし、そんな暮らしにもピリオドがあった。
それは家族が揃っていた頃によく遊びに言っていた別荘だった山小屋での出来事。
その日は珍しく、アスカが夜に帰ってきて父親とばっとりと顔を合わせたのである。その時にまた珍しい父親の行動が重なった。ぽつりと父親が小言を口にしたのだ。たった一言。偶然と必然の重なり合った口喧嘩。
やがてそれはアスカが家を飛び出す形となる。
そうしてアスカは山小屋へと逃げ込んだのだ。
そこで山火事が起こり、小屋は大惨事の中心になってしまう。泣き疲れ、久し振りにした喧嘩で疲れていたアスカはその火事の中心で魘されながら眠っていた。そのまま死んでしまいそうだった。しかし、追いかけてきた父親のカルロスが彼を自らの命を代償に助けたのだ。
父親が息を引き取る瞬間、アスカはやっと父親と和解する事ができた…。

――「うん、まぁ、それが幸せだったのかもしれないよね」
大雑把に自分の過去を好きな女性に披露していたアスカは悪戯っぽく彼女に向かって笑った。
「…後悔しない別れじゃなくてよかったね」
アスカの愛する女性―――レイカは優しい笑顔で頷く。
柔らかい微風が傍を吹きぬけて二人は視線を絡めたまま少しだけ身動きをとった。レイカは自分の蜂蜜色の髪をかきあげ、耳にそっとかける。
その仕草を眺めながら、アスカは眩しそうに一度瞳を細めた。
「それでアスカくんは引っ越すのね」
「あぁ…」
（あの町に…）
か細い溜息がアスカの唇の隙間から零れ落ちる。
「…ローズさんやアイリスさんとの出会い、教えて欲しいな」
レイカの唇がきゅっと上がった気がした。
「…あぁ、…それは…またゆっくりね？」
風がもう一度二人の間を抜ける。
少しだけ強かった風がレイカの髪を乱した。
「…ふふ、そろそろ中に戻ろう、姫君」
そっと慣れた手つきで彼女の髪を整えると、アスカは彼女を心配させないように微笑む。

『本当に貴方達は不器用な父子だったのね…。愛し方を、愛の表現方法をほんの少しだけ変わった表現をしていただけ』
柔らかい夫人の言葉が脳裏を流れた。
『…そうして、きっと二人とも似たもの同士ね…。こんなにもお互いを愛していたくせに、それに気づかないくらいだったんですもの』
――アスカ、お前を…独りぼっちにしてすまなかった…
（違うよ、父さん。…俺こそ、俺のほうこそ、父さんを独りぼっちにしすぎたんだ…。母さんを失って、哀しかったのは何も俺だけじゃなくて、…父さんもだったっていうのに…！）

――（だけど、今ならわかるよ。一人の男として、ただ一人の愛する女性を失ってしまった時の痛みは）
「レイカちゃん…、君のことは…俺が護からね」

アスカくんのお話でしたー！！お疲れ様です！！（爆）
うぅ、基本的に肉親殺すのを好きなのか、私は（ぉぃ）
なにやらそんなつっこみが色んな方から飛んできそうな予感が大です！！（ﾏﾃ）
次はローズさんの話でも描きたいなとかかんがえてしまうのが、アスカくんですね…ｖ
秘話はたくさんありますし…。
そう、裏設定多いのアスカなんですよねー（ほろり）というか、ライくんとかはゲームで微妙に描きましたしねぇ。
まぁ今度書く機会があれば、もっと詳しく書いていきたいです…。では…ｖ

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