キラの秘話
「おぎゃあぁ…」 生まれたばかりの赤ん坊が泣いていた。 産声とも言えるその声を無視しながら、男も泣いていた。 男は赤ん坊の父親である。 必死で目に浮かぶ涙を拭いながら、鼻を啜る。 啜らなければ、垂れ下がるだけの体液は情けなく。吸っても吸っても引き下がることを知らない。 塞ごうモノならばとうに耳を塞いでいる。 塞がないのは罪を認めているからだろう。 脳裏を突き刺すような赤ん坊の泣き声は、胸を締め付け、嗚咽を漏らさせた。 苦しい…と想うのは男だけではない。 産みの母親も、今…家の中で泣いている。 何故、生んだばかりの我が子をこの手から離さなくてはならないのか。 そんな自問自答を繰り返しながら、他の子供を抱きしめるのだろう。 生むことこそが罪。 育てることもできない程の貧しさ。 それが諸悪の根源。 男も女も苦悩の末、選んだ決断なのだ。 産み落としたばかりの小さな命は天命に任されることになった。 願わくば…苦しみのない死を。安らかな生を。 贅沢に祈れるのであれば…健やかな成長を。生きる為の機会を。 二人の願いが届いたかは判らない。 やがて赤ん坊は泣きつかれたのか、声を上げることをやめた。寝息の音も聞こえなくなった。 あぁ…天の神様はどちらの願いを聞き入って下さったのか…? ゆっくりと日が昇る。 一人の僧侶がゆらりと山奥にその影を落とした。草陰から狙っていた獣達を退けると、ささやかな籠の中で眠っている赤子に目をやる。 恐ろしくも眩しい赤毛を大変気に入った僧侶は、そっと手を伸ばした。 抱き寄せて、その髪を撫でてやる。 やがて僧侶と赤子はその姿をその場から消していった…。 |
キラくんの秘話でした。 勿論、赤子がキラくんですよ?(笑) 無事に生き残って、彼はこの後、一人旅をし、死にかけているライくんに会います。 僧侶の方から聞いていた自分の話。 そしてそれが倒れているライの姿に被るのかもしれません…。 |
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