クロスの秘話
――母さんは旅芸人一座の座長の娘だった。 ナイフの扱いが上手くて、あっけらかんとしていて、難しい困難も楽しく面白く変化させるのが好きな女性。何事も前向きで、いつも馬鹿みたいに明るく笑っていて、周囲の人間の心をほんのり落ち着かせる効果を持つ人だったと想う。 …はっきりと覚えているとまではいかないけれど、柔らかい面影がそう語っていた。 『クロス、クロスの髪はお父さん譲りね…!とても綺麗な…。見て!夜空に輝くどんな星よりも月の下に輝く貴方の髪が一番綺麗…!』 優しい音色が心地良く、耳に残っていた。 クロスは腫らしていた瞼を上げると、ちょっとだけ擦る。 朝の光が鬱陶しいぐらいに自分の顔にかかっていた。 死んだ母親が大切にしていた手鏡に手をそっと伸ばすと、それを握り締める。小さな鏡の面に映っている自分の顔を見て嫌気が差してきたが、ふと自分の前髪に触れた。 (母さん…) 母親が褒めてくれた銀色の髪。それを眺める瞳も冷たい感覚を呼ぶ銀色の二対。 物心ついたときから、この髪と瞳の色のせいで散々罵られてきていた。 しかし、母親だけは違って、自分と自分の父親の二人の体質を好きだといって笑ってくれていた。 (…どうせなら) クロスはどうしても想いだせない母親の表情を必死に探しながら心の中で呟く。 (どうせなら…、母さんと同じだったらよかったのに) 母親の髪は薄い栗色のような髪で、柔らかくて風になびいていた。といっても、ナイフ使いの母親は長い髪は邪魔だと、男のように短く切りそろえてはいたのだが。 「クロス、いつまで寝ているんだ。いい加減に起きなさい。剣の稽古をするぞ」 「…っ」 母親の姿を求めているクロスの前に同じ銀色の髪と瞳を持つ、男が声をかけ、空気を壊した。 彼こそ、クロスの父親のアストロである。 「ジルの想い出に浸るのもいいが、いい加減、乳離れしたらどうだ。情けない」 「…っ、親父に言われたくねぇっ!!」 クロスはかっとして、物凄い勢いで側に置いてあった真剣でアストロに斬りかかる。 アストロはその息子の行動に口元に笑みを浮かべると、こちらも真剣を手にしながら表に誘うように出た。 何度も何度も剣の交じり合う、金属音が真っ青な空に響き渡る。 「おーじーさまー!クロスー、お弁当持ってきてあげたけどー」 「おぉ、ナンシーちゃん、悪いねv」 二人の誰をも寄せ付けぬ雰囲気の中、気軽にやってきたのは隣家の幼なじみ、ナンシーだった。 「くそ親父!よそ見してんじゃねぇっ!!」 彼女に対して優しい笑顔を浮かべて受け答えをしているアストロに腹を立てながら、力いっぱい振り絞ってクロスは飛び掛る。 誰もが究極のタイミングの一撃だと想っただろう。しかし―――… 「…甘い!」 「なっ!!」 ――ガッキィィィン…っ!! クロスが握っていたはずの剣がくるくると宙を舞い、やがて真っ直ぐにナンシーの座っていた木箱の数センチ前に綺麗に真っ直ぐ突き刺さった。 「おっと、ナンシーちゃん、怪我はないかい?」 「あはは〜v全然OKですよぅ♪」 ナンシーはなれているのか満面の笑顔でアストロに媚びる。 「…ちっくしょう…っ!」 余裕のアストロにクロスはどこへもぶつける事のできない怒りを放り投げるようにその場に座り込んだ。 「…まぁ、まずは飯だな」 アストロはそんな息子に苦笑しながら、穏やかにそういうのだった。 ―――それから何年の年月が過ぎるただろうか。 幼かったクロスも青年へと近づいていく。 それはアストロでさえ予測できないぐらいの早さだったかもしれない。 ――ガッキィィィン…っ!! 脆くなった剣は半分に割れ、宙を舞い、覆い茂った芝生の地面の上へと綺麗に真っ直ぐに刺さった。 残りの半分を持つアストロは、今までに見た事もないほどの穏やかな笑みを表情に表し、真っ直ぐに自分の息子を眺める。その視線にはどこか寂しげな残念そうなものも含まれていたかもしれない。しかし、喜びと敬意が込められているほうが大きいだろう。 「成長したな、クロス…」 アストロは嬉しそうにクロスへと笑いかけた。 「あぁ…、これで、最後…、なんだろ」 「ん、俺はもう剣は振るわない。…全てをお前に捧げ尽くしてしまったからなぁ」 二人は暫く穏やかな笑みを浮かべながら、お互いの表情、息遣いを肌で感じていた。 やがてクロスがその温かい沈黙を大切に破り捨てる。 「…俺を待っている人がいるんだろ…?行こう」 ――この後、彼は自分の言葉通りに己を待っている女性と出逢う事になる。 『…ふふ、満月のように柔らかい光の色ね…v…クロスくん、私はクロスくんの髪と瞳の色、とても素敵で綺麗だと想うわ。うん、私は好きだな』 再び自分自身の存在を好きになれる言葉をくれる太陽のような人。 月が輝くのは太陽が柔らかい笑顔の光を与えてくれるからなのだから…… |
このお話はクロスくんの幼少時代から始まっていますが、どうなんでしょうか(笑) はい、お母さん出てきましたねーvジルという名前は一応中学の時の時点で考えてあったのですが、今思えば…あの頃バイオハザードやり始めた頃だったなぁとか(ぉぃ) ウフフ☆ アストロさんが物語(ゲーム)最中に剣を全く持って握らなかったのは上の理由だったとか(爆) もう息子に全てを託して、彼は完璧な引退を決意したのです…。 クロスくん好きさんの皆様に気に入っていただければ幸いな些細な物語でした…v |
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