クライシスの秘話

――忘れていたものが何か…、あの時、僕達に欠けていたものは何か…

――確かに思い出せるのは嘲笑いと羞恥…。

――だけど貴女は…僕に大切なものをくれた。

緩やかに流れる時間の上で、クライシスは重い瞼を開けた。
日の光がカーテンの薄絹の隙間から、すぅっと差し込んでいる。光を遮断するためのカーテンじゃない。
夏の日差しには耐えがたいものがあった。
「…そうか、…もう夏、なんだ」
クライシスはぼんやりとそう考えながら、一度咳き込んだ。体の上半身をベッドから起こすと、もう一度咳き込み、溜息を吐き出す。
それでも窓の外の景色だけは知っていた。
桜が舞い散る風景。
クライシスの部屋の窓からは桜公園と呼ばれている島唯一の名所ともいえる公園が見れる。
その公園の桜の木は年中桜の花弁を舞い散らせ、艶やかな桃色の絨毯を島民たちに与えつづけてくれるのだ。
「…桜の精はいいました…。愛する男には永遠の栄光を。…そして憎むべき男には永遠の苦しみを」
クライシスは何度か咳き込みながら、やっと立ち上がると、就寝服のままハーブティーを淹れる。
優しい香りがクライシスの鼻孔を擽り、少しばかりの安息を得るのだった。
「…僕を残したのは…曾祖父と同じ顔をしていたからか…」


フィーゼ島にはヴィアデニク城という城がある。
それはこのフィーゼ島と周囲の小さな島で成り立つ、フィーゼ諸国王が住む城だ。
そしてその城には昔、二大勢力と呼ばれていた二つの貴族たちがいた。
セルディ家とニムトカーナ家。
どちらも諸国をまとめる為に必要な大きな力を持っていた。
しかし、王族となったのはニムトカーナ家だ。
彼らは桜の精の寵愛を受けたのだ。そして、セルディ家は反対に没落する。

1人の老婆が桜の木下で蹲っていた。セルディ家の男はその老婆のみすぼらしい姿に嫌悪感を抱き、苦痛を訴える老婆を無視し、家路に着いた。しかし、その後、同じようにそこを通りかかったニムトカーナ家の男は、老婆の背中をなでてやり、優しく接した。

これが…二つの貴族の未来を大きく分けた瞬間だった。
老婆は見る見るうちに赤い衣を身に纏う美しい女性に姿を変え、永遠の恩寵をニムトカーナ家に与えると告げる。
そしてセルディ家には永遠の苦しみを与えると…。

クライシスは深い咳をつくと、心臓を掴むように胸をかきむしった。
持っていたカップを落とし、床にはばらばらと破片が散らばる。
暫くしてから、やっと落ち着くとクライシスはいつものように『死にたい』と願った。
そして胸に手を当てているのを思い出し、自分の心臓の音を確かめようとする。
しかし、いくら待っても鼓動は聞こえなかった。

――僕は…もう死んでしまったのかもしれない。

年月が経っても容姿が変わらず、クライシスは生きていた。
ただ1人だけ。
病気で死んでいった一族の者達を見ながら、一人だけ生き残ってしまった。

「…本当は、生きたい。…もう一度、生きたい…っ、僕は…っ、生きていたい!!」

両手を伸ばして日の光を掴みたい。
クライシスは笑いながら泣いた。

彼に救いの女神が現われるのは…また別の話…。


クライシスさんのお話でした☆
ふひー、やっとクライシスさんの呪いの詳細についてちゃんと描けたかな…?とか世迷言をいってみます(死滅)
てへ☆(*ノノ)
なんでもかんでも遠まわしに描くのは昔からのくせみたいなものなので、やっぱりなんだか抽象的でもうしわけありません(土下座)
だけど、ゲーム内での話よりかは、ちゃんと詳しくかけたかなーとか。
そんな感じで終了です(笑)






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