ダーダイルの秘話
「船長…!船長、起きて……っ…」 新人として船に先日のったばかりの船員は、静かに寝息をたてている船の持ち主の男の顔を覗き込みながら、息を止めた。 罰ゲームと変わらないこの行動で彼は自分が知らない船長の過去を覗いてしまったのである。 「…頭のそれ、見るのは初めてかい」 「!」 後ろから言葉をかけられて慌てて彼は背筋をぴんと緊張させた。 恐る恐る振り返ると、そこには赤毛の男が立っている。 事実上、船長の右腕といってもいい実力を持っているジャグルだった。 「はは!副船長のボーにでも命令されたんだろうが、気をつけたほうがいいぜぇ。頭は寝起きが強烈悪い」 「…うげ」 若い船員は冷たい汗が背中を何度も流れるのを感じる。 ジャグルはその様子に笑いながら、ぽんっと彼の肩を叩いた。 「この傷はな…軍属のやつらにつけられた傷さ」 「…あぁ、何度もいざこざがありましたしね…?」 彼の言葉にジャグルは小さく首を振る。 「…海賊になってからじゃねぇ…。…これは、普通の市民として…頭が生きていた頃にだ」 「え…」 若い船員の表情に『どうして?』という戸惑いの色が大きくなった。 視線が自然と今も機嫌よく眠りについている男の左眼へと向いてしまう。 くっきりと目の周りを覆っているのは火傷の跡だ。そうして深い一本の雷光のような切り傷の線。どちらも美しい彼の顔には不似合いなものだった。若い船員はそう想いながら、いつも彼がしている黒い眼帯へと視線を移す。それがいかに彼の不釣合いな痛々しい傷跡を綺麗に隠していたのか。 「…頭が…、この船の頭となり、義賊を志したのは…そうだな、お前さんの年よりも少し若い頃か」 ジャグルがそっと言葉を続けた。 「俺もはっきりはしらねぇけどな…、とにかく頭が俺と同じ船に乗ったのは10歳か11歳の頃なんだぜ」 「ただし」とジャグルは付加えるように強調する。 「今この船の船長として動き始めたのは15歳の頃。…な、お前より、少し若い時だろう?」 「は、はぁ…」 若い船員はただただ頷くだけだった。 頭の中で『どうして?』という言葉ばかりがずっと繰り返されている。 「…軍人にやられて、家族を失い、再起不可能な傷を左眼に施された頭の…あの当時の様子は今でも忘れられねぇよ」 「…船長が…」 「あぁ、嫌になるぐらい褪めたような態度で嫌な冷めた瞳でじっと世の中を見つめるような…」 「…余計な話を口にする間が合ったら、手を動かしたらどうだ?」 「うっ!!」 二人は同時に硬直した。 冷たい音色が寝息を立てていたはずの唇から紡がれ、緋色の鮮やかな瞳がじっとこちらの様子を睨むように見ていたのだ。 「か、頭…、じゃ、じゃあ!俺はこれで!!」 ジャグルは明るい口調で笑うと逃げるようにその場から離れていく。 「で、では自分もこれで!!」 「…待て」 「ひぃ!」 冷たい声で引き止められて、若い船員は悲鳴を上げた。 「おい…、お前、その化け物に襲われるみたいな態度は改めろ」 「は、す、すみません…」 左眼に眼帯を当てている船長の顔色を覗きながら、若い船員は視線を不規則に泳がす。 「…小さな田舎町でね、俺はそこで育った」 「……」 若い船員は引き込まれるようにその言葉に耳を傾けた。 「あれは…燃えるような緋色の夕焼けの午後…」 ―――「ダーくん、ダーダイル!…ダーくんってば!!」 「うるさい、ブス。少しは黙れよ」 「まぁ…!実の姉に向かって、よくもまぁそんな口の悪い事を…っ」 ダーダイルに駆け寄ってきた長身の女性は頬を拗ねたように膨らませると、少しだけ怒った様子で腕を前で組んだ。 「誰があんたの夕食を作ってあげたと想っているのかしら?!…わかったわ、いいのね?夕食抜きの刑でいいのね!」 「…っく、悪かった。これでいいだろ。で、なんだ」 トーンの幅を変えずにダーダイルは一息で言葉を吐き出した。 その様子に綺麗な顔立ちの女性はその表情を少しだけ歪ませたが、諦めたように肩を竦めて深い溜息を吐き出す。 「あんた、絶対にいい男にはならないわよ…」 「あーはいはい。…だからなんなんだよ」 自分より少しばかり身長の高い女性の言動に笑いながら、ダーダイルはじっと夕日と同じ緋色の瞳で彼女を眺めた。 「…大陸の中央では戦争が始まっているみたいよ。…数日前に3つ隣の町が巻き込まれたっていうし…、そろそろこの町も危ないかもしれないわね。お隣のおばさんたちも逃げる用意をしているみたい」 「ふーん」 「ふーんってね、あんたって子は…」 救いようがないというように女性は眉間にしわを寄せて深い溜息を吐きだす。 「ふふ、マリアのことは俺が護るよ」 そっとダーダイルの手が女性の頬に触れた。 温かい温もりがお互いに安心感を感じさせる。 「…マリアは、俺が護る。マリアだけは何が合っても…」 優しい笑顔。とても綺麗な笑顔だった。そんな表情に女性は少しだけ顔を赤らめていたが、はっとしてすぐに冷静に戻った。 「ま、また、あんたって子は!!お姉ちゃんって呼びなさいっていつも言っているでしょう?!」 「…やーだねvんな頼りない姉なんて姉じゃねぇよ。それに…」 ダーダイルは言葉を詰らせ、少しだけもの哀しそうな笑顔を女性に返した。 (…絶対に認めない。マリアが姉だなんて認めたくない…っ) 姉として「愛している」のではなく、彼は一人の女性として「愛している」のを自分の中で何度も思い知らされている。 だから認めなくなかったのだ。 彼女を姉として認めた瞬間、その恋は儚く消えてしまう気がしていたから…。 しかしそれは早くも崩れ去った。 戦火の勢いは物凄い速さで大陸を燃え移っていったのだ。 「マリア…っ、マリア…っっ、マリアー―――っ!!」 喉が枯れて声が壊れてしまうのではないかと想うほど、ダーダイルは叫んでいた。 崩れ落ちる体。 零れ落ちる涙。 舞い散る束髪。 舞い踊る血片。 「うるさい、蚊だな」 ざっしゅ…と音がした。激痛が走ったが、彼女の受けた痛みと辱めに比べればなんともない気がする。 ダーダイルはぼんやりとそう考えたが、視界が赤く染まっていき、半分の視力へと変わっていくのを知った。 大好きな彼女の姿がその紅いレンズの中で踊るように生まれた姿のまま半分に分かれたのを見た。 黄金色の長い髪がもう一度大きく舞った。 「…マリア…っ」 一度そこでダーダイルは気を失う。 再び目覚めた時、辺りは痛々しいほどの戦火の火傷。 何もかもが壊され、何もかもが奪われていた。 二つに分かれ、異臭を放ちながら中のモノを曝け出している遺体にふらつきながら寄ると、ダーダイルは右目で涙を溢し、左目で血の涙を落とした。 「痛い…、痛いよ、…マリ…ア…っ!!」 大切な人を目の前で奪われた悲しみと、護れなかった自分への怒り、自身に起きている苦しみに痛みは消えることはない。 「うっ、うぁぁぁぁっ!!」 やがてダーダイルは何を決心したのか、血を止めるために何度も何度も転がっていた松明の火で自分の左目の傷を焼いた。 幾度となく気を失いそうな激痛に顔を歪ませながら、必死に血を止める。 その時、彼の心の中で芽生えた復讐という名の火種はもう誰にも止められるような熱さではなかった…。 ―――「そ、それで…船長は…海賊に?」 「ふふ、そう…」 軽やかに笑うと、ダーダイルは口角を少しだけ上げる。 「俺が下働きをしていた、なんて誰も信じないのだが…」 「大変な苦労をなさったのですね…!」 「苦労?」 ふっとダーダイルは妖しい色を瞳に浮かべる。 「いいや全くv」 「え…?」 「ふふ、俺が苦労をしたというとジャグル辺りが大泣きするだろうねぇ…v」 「じゃ、ジャグルさんが…?」 若い船員はありえそうな現実に一瞬目眩を覚えそうだった。 「…まぁ、その時の話も…、また気が向いたら話してあげよう」 「あ、は、はい!」 「…今宵はきっと満月だろうからね…v月の女神の美しさに感謝するがいいさ…」 禍禍しい雰囲気が全身の毛が総毛立つような感覚に襲われる。 若い船員はその魅力にただただ言葉を失うだけだった…。 |
…過去モノストーリーですv キャラクターを彩ろうと想いまして(笑)いや、もっと魅力的に(?)人間的に、そして彼らをもっと身近に愛して欲しいので(爆) 第一弾はダーダイル氏ですv この後は部屋順に増やしていこうと思いますので、お付き合いいただければ幸いですv それではこれにて…v またジャグル氏との出会いも描きたいものですね…♪ |
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