闇黒天使一周年記念特別ドリーム小説
『妹ちゃんとお兄ちゃんズ☆』

『夢――

まず、私と私を取り巻く状況を知ってもらうために、私のことと家族の紹介をしなければなりません。

私の名前は、天宮。今年でやっと15歳。
私が通っている学園は『如月学園』といって、幼稚園から大学までエスカレーター式となっている。
結構なお金持ち学園だと思う。
変わってるところといえば、私たちが通う普通科と特別科という謎の美形集団の学科があるということかなぁ?
如月学園長は謎の多い人だけど、この特別科のことが重なって余計に謎的な人物になっている。

あ、そうそう…実はその特別科の国語教師として私の一番上のお兄ちゃんが勤めている。
一番上…と書いたのは、私には他にも合わせて4人の兄となる存在があるからだ。
まぁ、まず一番上、国語教師勤務の馨(かおる)お兄ちゃん。
普通科にも国語教師代行として何度か顔を見せているので、うちのクラスではちょっとした評判となっている。
たしかにオシャレでセンスも良く、愛想もいい。
だから人気があるのはわかるんだけど…。
実は馨お兄ちゃんは、かなりのドジでただのお人よし。かなりの味音痴で、家事全般が苦手だ。
それに加え、歌も極度の音痴で、洗濯物をしながら鼻歌を歌っている時なんか…。
洗濯機からは大量の泡が溢れ出てくるし、自室に篭っていたはずの湊(みなと)お兄ちゃんが怒鳴りながら降りてくる始末…。

湊お兄ちゃんは次男。
今年如月学園の大学生になったところ。
熱心な勉強家で、先生たちからも厚い信頼を寄せられている優秀な生徒…。
…というのは表向きで、湊お兄ちゃんは我が家の家計簿の全てを握っているといっても過言ではない。
勿論、一家の大黒柱である馨お兄ちゃんの給料も湊お兄ちゃんの手中。
そう、湊お兄ちゃんは何故かお金に関して異常なまでの執着心を持っている。
小銭の音で何円玉が落ちたか、触っただけでそれが何円札か当てられるのだ。

そんな二人の兄を影で苦労しながら支えているのが郁兎(いくと)お兄ちゃん。
私とは二つ歳が離れているけど、学園で表せば一学年しか違わないお兄ちゃんだ。
勉強だけ成績がいいのではなく、運動能力も抜群で、高等部では結構有名。
中等部でもファンがいたくらいだし…。
そんな郁兎お兄ちゃんは、家計を助けるためにバイトもしてくれている。
本当に優しいお兄ちゃんなんだけど、唯一悩みの種は女性恐怖症のところかな…。

最後に私と同い年のお兄ちゃん…といっても、私自身お兄ちゃんだとは思っていない。
双子の隼(しゅん)。
高等部一年在籍で、私の隣のクラス。
運動能力が桁外れで、バスケ部の中でその能力を存分に発揮している。
難しい事を考えるのが苦手らしく、短絡的思考の彼はいつも笑顔。
無邪気に笑うその表情に騙されている女子が数十名。
…だから、本当に隼は何も考えてないんだってば。

…えーっと、これだけで予想をした人も多いとは思います。
私たち兄弟は、両親がいません。
2年前の交通事故で二人とも私たちを残して逝ってしまったのです。
他に身よりもなく、その時職につけた馨お兄ちゃんが皆の保護者となることを提案しました。
これ以上、家族がバラバラになるのは嫌だった。
だから私たちはその提案を素直に受けました。
…お兄ちゃんたちと離れるのは本当に寂しい。
だから…。


…最近、思うことがあるんです。
結婚相手も、ましてや恋人さえ作らず働く馨お兄ちゃん。
その姿を見ていると、まるで私が馨お兄ちゃんの人生を犠牲にして締まったんじゃないかって…。



『朝――湊』

「あー…うぜぇ…」
身体が重くて、俺はぼんやりと天井を眺めながら呟いた。
いつもの癖で貯金箱に入っている小銭を数えていたら、案の定明朝。
そしてもう既に目覚ましは二度ほど叩き止めた。
…そろそろ起きねぇと遅刻か。
その時、部屋の扉を越えて階段の下から下手くそな鼻歌が俺の耳に入ってくる。
「〜〜〜っ、勘弁してくれ…っ」
俺がそう言って、上半身を起こしたのと部屋の扉が遠慮がちに開いたのはほぼ同時だっただろう。
「あ、ご、ごめんなさい」
「…気にするな、
小さく肩を竦めた妹の姿に目を細めながら、俺は出来る限り優しい音色でそういってやった。
この男兄弟の中で唯一の女である妹は、いつも怯えているような表情をしている。
同じ双子の隼といる時はもっと明るく笑っているはずなのだが、何故か俺や長男の馨兄と話すときは少し怯えいるのだ。
郁兎の時はどうであったかはいまいちわかっていないのだが…。
「あ、あのね…、馨お兄ちゃんが…」
「…あぁ、言うな」
偏頭痛が襲ってくる気がして、俺は額を押えた。
安易に想像ができる。
…あの、馬鹿兄…っ!

階段を完璧に降りる前に俺はもう一度寝床へ向かおうかとも何度も考えた。
…が、背中にぴったりとがくっついてきていたので、それはしなかった。
「…おぉ♪湊v」
「…るせぇ。なにしてやがんだ、てめぇは」
イライラしながら、俺は怒鳴る。
背中にくっついていたの身体がぴくんっと小さく跳ねたのがわかった。
「馨兄貴がさ〜、目玉焼き作ろうとしてくれたんだけど、…見てよ!コレ〜!!」
「あははは!眼帯〜」
真っ黒焦げになった目玉焼きであったんだろう残骸を皿に乗せて、馨兄と隼がけらけらと笑っている。
その能天気な馬鹿二人の笑いが俺の脳天にかっちーんときた。
「黙れ!この馬鹿兄弟!!!」

せっせと後片付けをしていた郁兎に『あの二人には何もやらすなよ』と忠告してから、俺はさっさと学校へ向かう事にした。
が何か俺に言っていたような気がしたが、先生たちから愛される生徒を貫き通すには15分前には学園の敷地内に入っていなくてはならない。
俺は眼鏡の曇りを柔らかい布で拭き取りながら、予定通り15分前に登校した。

1時間目の授業が終わった頃だろうか、友人の榊原が俺に声をかけてきた。
「っるっせぇよ。榊原。お前、俺が予習してるの見てわかんねぇのか?」
邪魔すんなと付加えようとして、俺は不自然な榊原の手の動きに言葉を止める。
「相変わらず、お前は性格最悪だな!俺だけにしか聴こえていないと思いやがって!」
「…なんだよ?その手は」
「…お前の愛する妹ちゃんが来てるぞ。あいかわらず可愛いねぇ」
が?!」
俺は慌てて席を立ち上がると、榊原を押しのけて廊下に顔を出した。
すると、廊下の壁にもたれかかっているの姿があった。
俺を見視界に入れると、今までつまらなさそうにしていた表情が明るく輝く。
一生懸命な歩きで駆け寄ってくると、は俺に弁当箱を差し出した。
「…あ」
あまりの苛立ちに弁当を持ってくるのを忘れていたのか。
やっと気づくと、俺はそれを受け取りながら、に微笑む。
「サンキューな?」
優しく頭を撫でてやると、は嬉しそうに笑った気がした。
「…あら、天宮くん、妹さんがお弁当を届けてくれたの?ふふ、兄弟仲が良くて羨ましいわ」
後ろから不意に言葉をかけられたが、俺は満面の笑みで振り向いてやる。
「えぇ、いい妹でしょう?俺の自慢の妹ですから」
現代社会を担当している女講師は、大きく頷くと上気した微笑みを浮かべてさらに何かを口にしようとしていた。
「…あぁ、先生。僕は大切な妹を送らなければいけないのでv」
有無を言わせず、俺はの肩を抱きながらそっと廊下の角に姿を消す。
…あの手の女は嫌悪感さえ抱く。
世間話から入って、一体俺に何を望んだのか。
「…ふん、馬鹿女」
俺が鼻を鳴らすと、が困ったように首を傾げた。
「あぁ、お前の事じゃないぞ?」
慌てて俺がそう言うと、眉を下げながら少しだけ微笑む。
「……」

「あ・ま・み・や・くーん♪天宮湊くん〜」
「死ぬか?榊原」
後ろから抱き付いてきやがった榊原の腹に肘鉄を食らわせた。
やつは小さく唸ると、そこに座り込む。…大袈裟な野郎だ。…いや…、これは。
「大丈夫ですか?榊原さん」
が心配そうに榊原を覗き込んだ。
…ちっ、しくじった。やつの作戦か!
、そんな馬鹿は放っといていいぞ!」
「え、でも…」
「あぁ、二重人格兄貴と違って優しいねっ!…大好きだよ、ちゃーん!」
「きゃ…?!」
榊原は昔、俺の家にやってきたときにを気に入ったらしい。
の小さな肩に両腕を回して抱きついたのが先か、俺が回しゲリをやつの顔面にお見舞いしたのが先か…それはわからない。
だが、とりあえず妹を狙う悪漢の1人は見事な円を描いて、吹っ飛んだ。
「きゃー!榊原さんっ?!」
「…成仏しろ、榊原」



『昼――隼』

「あっれー?はぁ?!」
一時間目の授業が終わって急いで隣のクラスのに会いに来たのに…。
はどうやら大学の校舎に1人で行ったらしい。
きっと、湊兄貴んとこに行ったんだろうけど…。

最近、が1人で行動する事が多くて俺はそれが気に入らない。
だって、今までずっと一緒だったんだぞ?
生まれたのも数分の違いだけだし、ご飯を食べる時だって、遊ぶ時だって…いつだって一緒だった。
なのにここ最近になって、少しずつ避けられているような気がしてたまらない。
俺だって、俺が男でが女だってこともちゃんとわかっているつもりだけど。
だけど…、は昔からあんまり自分から言葉を喋るタイプじゃないから、余計心配なんだ。
俺らがいるから、それこそ苛めはないけど…、には友人らしい人物が見当たらない。
「こら!そこの坊主」
…いや、嘘いったかな。たしか1人だけいた。
「うるさいよ、男女!」
「なんだって?!アタシのどこが男女だっていうのさ?!」
「全部に決まってるじゃん!この巨女っ!」
「あー!それをいうならあんたがちびなだけだろう?!このミクロ男!!」
「なっ…」
俺はムッとして目の前に立ちはだかっている馬鹿でかい図体の女を睨みつける。
山川華恋(やまかわ・かれん)。
この女のどこをとってそんな名前をつけたのか本当につっこみたいけど、華恋はの唯一の友人だ。
がすごく頼りにしている人物で、最近じゃ俺の前では笑わなくてもこいつの前じゃ笑ってる。
余計にその事実が俺とこいつとの溝を広げている感じ…。

「二人とも!!」
俺が口を開けて華恋に文句を言おうとした瞬間、廊下の角から走ってやってきたが珍しく怒鳴った。
「…もう、チャイム鳴ってるわ」
「え?!」
不本意ながら俺と華恋は同時に言葉を発した。
「…あ、じゃあ三時間目の合同体育で!」
俺はそれに眉を寄せながら、には満面の笑顔でそう言って手を振った…。

三時間目は合同体育。
今は走り棒高跳びをやっている。
俺はこれが大好きだ。
バスケも好きだけど、なんだろう。一瞬、空に自分が溶け込むような感じ…。それがわくわくして楽しい!
「天宮だぜ、…お!」
「綺麗だなぁ…」
綺麗って…。
俺はクラスメイト数名のそんな会話を耳にしながら、目線をそっとへ移した。
丁度、が跳んでいた。
いや、飛んでいたっていった方がいいかもしれない。
背中に真っ白な翼があるんじゃないかってぐらい…空に綺麗に溶け込んでいる。
まるでそこが居場所みたいに…。
短いパンツから真っ白な長い脚が出ていて、身体にフィットした体操服からはの身体の線がはっきりと浮かび上がっていた。
…うっ、やばっ…。
急に胸が熱くなって、どうにも判らない感情が俺の中で駆け巡っていく。
わかっていたんだ。…わかってた。
俺は男で、あいつは女だって。
マットの上に落ちたを見つめながら、俺は呆然と立ち尽くした。
そうなんだ、を俺は大好きで…。

それは…許されない愛情なんだろうか?

「…隼、大丈夫?」
いつものように屋上で昼飯を食べていると、が心配そうに覗き込んでくれた。
しかし、なんだかそれが余計に切なくて俺は思わず顔を背けてしまう。
「なんだぁ?…いつものお前らしくないぞ?」
うるせぇよ、男女!…心の中でつっこみながら、俺は首を横に数回振った。
あいもかわらず、がこっちを見ている。
「こいつ、体育の時間から急に静かになったっすよ」
「そうそう!」
俺の友人、小阪・倉持・東がうんうんと頷きながらパンを口に放り込む。
「…隼」
小さな音色でがもう一度俺の名前を呼んだ。
じっと真っ直ぐに俺だけを見つめて、必死に俺の心の中を読もうとしている。
「…大丈夫だよ」
少しだけそのに不思議な安心感を覚えながら、俺は苦笑した。
すると、も同じような表情で俺を見ながら苦笑したのだった。
…ずっと一緒、だよな?…。



『夕――郁兎』

「なぁ、郁兎ー!遊びにいかねぇ?」
「…いや、ごめん」
「そっかー!お前もホント、忙しいよなぁ…。バイト、頑張れよ!」
放課後の誘いを断る時、本当に胸が痛む。
友人達は俺の理由をしっていてくれているから、あっさりと引き下がってくれるが…。
「えぇ〜?郁ちゃん、来ないのぉ?!」
「つまんないよぅ、郁兎〜っ」
…生憎、お前らにそんな呼び方で呼ばれるのも、そんなにしつこくされるのも不愉快以外のなにものでもないんだが。
俺は友人達の後ろにいる化粧の濃いクラスメイトの女たちを眺めながら、深い溜息を吐いた。
友人たちはそれを察して、彼女らを上手く引き取ってくれる。
…そう、俺は女が苦手だ。
煩いし、なにより遠慮をしらない、と俺は思う。

カランコロン…
バイト先は学園の近くの喫茶店だ。
小さなカフェだったけど、ケーキも紅茶もコーヒーも味は保証できる。
俺はケーキには興味がなかったけど、紅茶には昔から関心があったから、正直バイトは苦じゃない。
それにケーキに合わせて紅茶を選ぶと、どちらの味も選り一層引き立てられるということが最近になってやっと理解できた。

カランコロン…
小さな鈴のついた扉が開いた。
「いらっしゃ―――…」
俺は言葉を一度止めてから、もう一度言葉を始めから続ける。
「いらっしゃい。
妹のがこうやって学校帰りに尋ねてくるのは珍しくない。
は小さく『うん』と頷くと、窓際の席に座った。
ここは特別な客専用と店長がよくいっている。
だから俺はあえてここにを座らせるのだ。
一番日当たりが良くて、窓から見える景色も椅子と机の材質も特にいい場所。
「…ケーキは?」
俺が嬉しそうに微笑みながら言うと、は少しだけ悩んで遠慮がちにショートケーキといった。
「紅茶は…お兄ちゃんに任せる」
そう付加えながら。

店長と同じバイトの神野さんのところへ戻ると、まず神野さんが興味津々な顔つきで俺に近付いて来た。
「ななっ、あの窓際の特等席の子、お前の彼女か?」
…あぁ、そうかいってなかったっけ。
俺が苦笑したのと同時に店長がさらに言葉を続けた。
「やっぱり、初めてあの光景を見ちゃえば、誰だってそう思うよねぇ。だけど…」
「残念ながら…、妹のです」
自分でも『残念ながら』の意味合いがよくわかっていなかった。
普通に考えれば、興味を持っている神野さんの期待にこたえられなくて…という意味にきこえただろう。
だけど、それは俺の中で不本意な意味合いだ。
妹、だと紹介するしかないこのもどかしさは一体なんなんだろう?
それは事実で、覆す事の出来ない現実だというのに…?
「うーん、今日は早めにあがっていいよ?」
「え…」
店長の言葉に俺は驚いて顔をあげる。
「だって、またあの子、閉店時間まで読書とかして貴方を待っているかもしれないでしょう?」
「…っ、ありがとうございますっ、すみません」
「いいよ〜v…それに神野くんが頑張ってくれるっていうから〜」
「えぇ?!」
「神野さんも…すみません」
深々と二人に礼をしてから、俺はもう一度窓際の席へ視線を向けた。
はケーキを食べ終わって、鞄から早速分厚い文芸書を取り出している。
窓から差し込んだ夕日の紅色の光が、彼女の長い睫毛に一瞬鮮やかに反射した気がした…。




『夜――馨』

「よし、終了〜!お疲れ様です」
俺は職員室のメンバーに軽く言葉をかけると、そこを後にした。
一階へ続く階段を駆け下りて、体育館裏の道を通ると、『お疲れ様でしたー!』という若い少年達の声が響く。
「丁度、よかったな。終わったか、隼」
「おう!馨兄貴じゃん」
「学園内では兄じゃなくて先生と呼びなさいっていってるだろ〜?」
「はいはい、わかったって!兄貴」
…わかってないな。
ひっそりと心の中で呟きながら、汗を拭っている隼を眺める。
…?
「…なんだ、なんだか元気がないな?」
「…え?!」
隼は心底驚いたように俺の表情をマジマジと見つめた。
「ふふ、これでも兄だからな!…で、どうかしたか?」
「…うんにゃ。ホント、話すようなことじゃないんだ」
そう言いながら、隼の語尾はだんだんと尻になっていけばいくほど弱々しく消えかかっていく。
「…そうか。…話したくないなら、無理に話すな。…だが、いつでも聞くからな」
俺はポンポンと隼の頭を撫でてやった。
彼は一瞬顔を真っ赤にして泣きそうな顔になったが、バスケ部のメンバーたちの視線を集めている事に気づいて、大慌てで俺の手を払いのけていた。
全く可愛い末の弟だ。
「じゃあ、隼、タイミングもいいんだし、一緒に帰ろう」
「…兄貴は勝手に…っ!…もう、わかったよ!待ってて!」
「うん」
そうして一度微笑んでから、中庭に視線を向けて俺は動きを止めた。
視界に入った人物に向けて、にんまりと満面の笑みを浮かべる。
後から聞いた話だが、その表情は本当に気味が悪かったらしい。
「湊、一緒に帰ろうかv」
「げ」
大学の校舎からわざわざ高等部の中庭をショートカットに使ったのが運のツキ…、と物語った表情で湊はがっくりと肩を落とした。

結局俺たちは仲良く下校をした。
長男としてはこれほど嬉しい事はないな。うん。
…まぁ、後は後1人の弟と可愛い妹とも一緒であればよかったのだが。
そう考えた瞬間、隣で隼が『あ』と音を発した。
何かと思ったら、角を曲がった瞬間、数メートル先に郁兎との姿があったからだ。
丁度、郁兎のバイト先の喫茶店から出てきたところだろう。
「郁〜っ!〜!」
俺がウキウキしながら大声で呼ぶと、両隣の二人が恥かしそうに文句を言っている。
前にいた二人もどことなく困ったような表情で俺たちが合流するのを待っていてくれた。
「つーか、馬鹿兄は本当にどこでも馬鹿兄だよな」
「そうそう、あんなところで大声ださなくってもさぁ…」
まだ文句をいっていたのか君たち。
「いいじゃないか!家族みんなで帰れたんだから!」
俺が力説すると、がこんくんと首を縦に振った。
うぅ、やっぱり可愛いな、
「…晩御飯、できたけど」
帰宅後、すぐにキッチンへと向かっていった郁兎の言葉に俺はひょいっと顔を向けた。
うん、いい匂いがする。
湊と隼も待っていましたといわんばかりにテーブルに座る。
俺も一緒に行こうと思ったら、ふとが急に俺の服の袖を握った。
?」
雰囲気の違う妹に俺は戸惑いを覚える。
今にも泣きそうな表情だ。
「…ごめんね、頑張るから」

はたった一言、そう漏らした。
俺は戸惑いを隠すように末妹の頭を優しく撫でるしか出来なかった。




『深夜――

お兄ちゃんたちは今日も優しかった。
『ごめんね、頑張るから』私は夕食を食べる前に、何故か馨お兄ちゃんにそう言ってしまった。
焦燥感がいっぱいになって溢れ出てしまった言葉。
お兄ちゃんはやっぱり困ったような表情になって優しく微笑んでくれた。

お風呂から上がって、私はとぼとぼと暗がりの廊下を歩き、自分の部屋へ向かう。
部屋の丁度前で隼と出くわした。
「…隼?」
そういえば昼間から様子が少しおかしかった気がする。
隼は私の言葉に小さく反応を示すと、真剣な表情で一度私を見た。
それから満面のいつもの笑みで笑う。
「一緒に寝よう?」
そう言った。
きょとんとしている私に少し恥かしがると、隼は大きく咳払いをしてからぎゅっと私の左手を握る。
「昔、よく一緒に寝ただろ?一緒の布団の中でさ、父さんも母さんもいて…」
「…うん」
急に物寂しい風が私の中を流れる。
いつまでも側で笑っていてくれると信じていたのだ。
だけど…。

部屋の中に入ってから、暫く隼はキョロキョロと部屋の中を見回していた。
なんだか久し振りに兄弟をいれた気がする。
そんなことをぼんやりと考えていると、隼は私の肩にもたれかかってきた。
「へへ…っ、、いい匂いがする」
「お風呂入ってきたから…」
「違うよ、なんか安心するって言うか。…の香りだよ、コレ」
…急に恥かしくなってきた。
隼の行動に戸惑いながら私は何度か瞬きを繰り返す。
それしか、出来なかった。
「明日も早いし、寝よっか」
隼が無邪気な笑顔で笑って、私のベッドの掛け布団を持ち上げた瞬間だった。
彼は声にはならない叫びを確かにあげた。
「〜〜〜〜っ!」
「え、馨…お兄ちゃん?!」
そう馨お兄ちゃんがベッドの中にいた。
…私のベッドの中に。
「あはは〜vや隼の様子がちょっとおかしかったからさ〜v…長男としては放っておけないっていうか?」
「ってか!なんでのベッドの中にいるんだよ!犯罪だぞ?!兄貴!」
「…ん〜?隼だって、一緒に寝ようとしてたでしょ〜?」
妖しい光を帯びた瞳で馨お兄ちゃんが隼にそう言った瞬間、隼は一瞬になって顔を真赤に染めた。
「…まぁまぁ〜v仲良く兄弟水入らずで寝よう!うん!」
「え、でもせまい…よ」
私が苦笑しながら答えると、馨お兄ちゃんはちょっとショックそうだった。
だけど、仕方が無いよね。
隼と二人だけならサイズ的にも大丈夫だけど。さすがに成人男性の平均よりも背が高い馨お兄ちゃんじゃ…。

、起きてるか?…まだ起きてるなら、新種の紅茶淹れてみたんだけど…」
扉の向こうから聞こえたのは郁兎お兄ちゃんの声だった。
馨お兄ちゃんと隼は二人して顔を見合わせると、口を少しだけ尖らせた。
「えー、俺にはそんなサービスしてくれたことないじゃんー!」
「郁、お兄ちゃんも新種の紅茶が飲みたい…っ!」
バンっ!!
その声を聴いて、郁兎お兄ちゃんが慌てて扉を開けた。
私と目が合うと、会釈でごめんといいながら、二人に顔を向ける。
「何してんだ?こんな時間に…」
「それをいうなら郁兄もじゃん!」
「そうそうv」
「…あはは…」
ケラケラと楽しそうに笑う二人組みと、明らかに戸惑っている郁兎お兄ちゃんの声が開けっ放しになった部屋から上の階まで届いたんだろう。
物凄い足音が聞こえてきて、予想通り湊お兄ちゃんが登場した。
「お前ら…何時だと思ってやがる!!」
「12時〜♪」
「酔っ払いか、てめぇらは!!」
ほぼ同時に笑いながら答えた馨お兄ちゃんと隼の返答に湊お兄ちゃんは丁寧につっこみを返す。
その怒鳴り散らす湊お兄ちゃんの気を静めようと郁兎お兄ちゃんが頑張っている。

「あ、そうだ!!」
突如、ナイスアイディアが浮かんだといわんばかりに、馨お兄ちゃんが手をうった。
「折角だから、皆で一緒に寝よう!」
「はぁ?」
湊お兄ちゃんが眉間にしわを寄せて返したが、他のメンバーはその意見に賛成のようだった。
私も同じだった。
…だって、こんなに楽しいから。
お兄ちゃんたちと、家族と過ごすのがこんなに楽しいから。
「たく、がいいなら俺は別にいいが…」
湊お兄ちゃんも睡魔に襲われたのか、意外とあっさりと降りた。

寝る前に『おやすみなさい』といった私の言葉の返答に馨お兄ちゃんが呟いてくれた。

、無理して頑張らなくてもいいからな。…俺も、湊も、郁兎も隼も誰も無理していない」

何も返答が出来ない。

「…俺は俺がしたいようにしたんだから、な」
すみません〜。一体なんなんでしょうか、コレは(爆死)
題名からしてふざけていますが、内容も既にふざけていますね☆(てへ)
しかも皆様から票が多かったのは、微エロドリームだというのに微エロじゃない(笑)
いやぁ、お兄ちゃんズは書いていて楽しかったです(しみじみ)
でも湊お兄ちゃんの親友―榊原くんが一番好きです(笑)
皆様が少しでも気に入ってくださってほのぼのとした気持ちになっていただければ幸いです(ぇ)
あ…。続きは…ご要望などが間違ってあったりしたら書けるなぁと期待していたり(マテ)
ウフフ、中途半端に終わってしまった感もしますが…こんな感じでv

一周年は本当に皆様に支えられてきたって感じです。
心よりお礼を申し上げます。
どうかこれからも末永く宜しくお願いいたします〜v
闇黒天使・如月燎椰

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